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創造的学習者になるとはどういうことか?
MYLABは、変化が激しく、不確かな時代において、「創造的に考え行動する力」を育むことを目的としたプログラミングスクールです。そうした子どもたちを育成するために、「クリエイティブ・ラーニング」という学習メソッドを採用しているのは、これまでに述べてきたとおりです。
クリエイティブ・ラーニングの提唱者であるMIT(マサチューセッツ工科大学)のミッチェル・レズニック教授は、クリエイティブ・ラーニングで育成したい人物像、つまり、創造的に考え行動する力をもった人を、「創造的学習者」とよんでいます。
創造的学習者とは、常に「新しいことを、創ることで学んでいく」ことができる人です。どんな状況でも、不確実性が高いことであっても、一つ一つ作りながら学び、学んだことを活用しながら課題を解決していくことができる人というのが、レズニック教授が語っていることです。
ルーチンワークや誰かが決めた仕事のみを淡々とこなす人や、人から仕事を与えられるのを待つ人とは対極なところにいるのが創造的学習者です。
創造的学習者の人たちには、まず能動性があります。情熱(Passion)を持てるプロジェクト(Project)を自分で見つけて、こなすことができます。
さらに、「これやっていいのかな?」「あれやっていいのかな?」と頭で考えて迷ったりせずに、「とりあえずやってみよう!」と考え、対象となるものをまずはいじくり回し、そのプロセスの中でどのようにすべきかを考えて、解決に向かっていく力があります。こうした態度を、「ティンカリング」とよびますが、ティンカリングも創造的学習者の特徴でもあります。
A学生とX学生
レズニック教授の著書『ライフロング・キンダーガーテン』には、「A学生」と「X学生」という話が出てきます。A学生は、成績表でずっと最高の評価を得てきたような学生です。しかし、A学生は、成績とテストの点が高いにもかかわらず、現在の社会で成功するために必要な創造的で革新的なマインドを持っていないと語られています。
一方、X学生は、リスクを負いながら新しいことにチャレンジする学生です。単に教科書に書かれた問題を解くのではなく、革新的なアイデアで、創造的な新しい方向性を生み出すのが、X学生とされています。
X学生は既存のものにとらわれずに行動できます。例えば、大学生時代に自分で会社作って起業するというのは、X学生の典型例だと思います。
大学に入ったら1~2年生の間はサークル活動に取り組んで、2年生~3年生になったらインターンに行って、いい会社に就職していくという、ある種のお手本のようなルートがあります。A学生は、こうしたルートに乗って大学生活を過ごします。
一方、X学生は、こうしたお手本のようなルートをあまり意識していなかったり、インターンでも積極的にいろんなことに取り組んでいけるような人たちです。
私のまわりでも、とりあえずいい会社に入れればいいと考えているA学生的な人たちと、自分の夢のために今こういうことをやっているというX学生的な人たちに分かれます。
X学生は、情熱を持てるプロジェクトがあって、そこに主体的に取り組んでいける人たちだと言えるとでしょう。私は、情熱はプロジェクトに付随するものと考えています。プロジェクトがなければ、パッションは生まれないと思います。
年代によるクリエイティブ・ラーニングの違い
人は、どうやって創造的学習者になっていくのでしょうか?
私が多くの子どもたちを見てきた中で、小学生の場合は、「4つのP」をあまり意識しない印象があります。「みんな仲良し!」という感覚をもっていたり、「楽しい!」と思ったことに何でも飛びつけるようなところがあります。つまり、プロジェクトが自分の内側から出てきたものだけでなくて、「楽しい!」と思えれば、人から与えられたプロジェクトでも頑張っていけるのが小学生年代の特徴だと思います。
これが中学生になってくると、自分のやりたいことが芽生えてきて、「4つのP」が生まれてきます。高校受験では、「どこの学校で、何がやりたいんだ?」と問われて、一度人生の選択が求められます。ただし、その対象は、「自分の学校」などといった、小さい閉じられたコミュニティの中に限定されて「4つのP」が発揮される印象があります。
高校生になると、プロジェクトや情熱の対象が外の世界に向かうようになります。社会や自分の外の世界に、プロジェクトを見つけることができるようになります。
大学生になると、その興味の向かう対象の規模がさらに大きくなったり、より実社会と関わることができるようになったりしていきます。
中学生・高校生で自分のプロジェクトを見つけることが重要
変化が激しく、不確かな時代において、自分らしく生き抜いていくためには、中学生・高校生の段階で、情熱を持てるプロジェクトを見つけるということが重要だと思います。人から与えられたものではなく、自分が何か成し遂げたいことという物を見つけられるとよいと思います。
それは、この世で誰も解決できていない課題などである必要はなく、すでに誰かが解決していたり、誰かが作ったものの改造であったりといったものかもしれませんが、本人が情熱を持って取り組めるプロジェクトに取り組むということに意味があります。
コンピュータを使って何かを作るとき、プログラミングのスキルがあったほうがたくさんのことができます。自分がこうしたいという情熱を持てるプロジェクトの中でプログラミングを学ぶということができたらよいと思います。
情熱を持てるプロジェクトを見つけることに寄り添うのがMYLABのミッション
中学生、高校生と成長していく中で、プログラミングが好きで、より高度なことを学んでいきたいという子どもに対し、MYLABにはそれに応えていくカリキュラムを用意しています。ただ、それ以上に、「本人にとってどのようなプロジェクトに対し情熱を持てるのか、そしてどのように見つけることができるのか」というのが、MYLABという教室が重視しているポイントといえるでしょう。
現在の中学生・高校生の世界は、学校・塾・家庭といった狭い世界の中に閉じられていて、その世界が子どもたちにとっての世界となってしまっていることは、教育における重要な問題であると考えています。
こうした状況を改善するため、MYLABでは、外のコンテストやイベントへの参加・主催などを通じて、子どもたちの閉じられた世界に対し視野を広げていく機会を提供していきたいと考えております。
世界を広げることができれば、子どもたちは主体的にプロジェクトに取り組むようになり、MYLABを卒業していくかもしれません。しかし、そこがMYLABが提供する教育サービスのゴールだと考えていきます。
プログラミングを教えるということではなく、徹底的に子供たちの成長にコミットしたいというのが、MYLABに関わっている私の望みです。いわゆる「読み書き」といった勉強に関する内容はいろいろな事業者の方が提供しているので、それ以外のところで子どもたちの成長にコミットしていく。それがMYLABの存在意義だと考えています。
宮島 衣瑛(みやじまきりえ)
株式会社 Innovation Power 代表取締役社長CEO
学習院大学大学院人文科学研究科教育学専攻博士前期課程
1997年5月生まれ。プログラミング教育を始めとするICT教育全般についてのR&D(研究開発)を行っている株式会社 Innovation Power のCEO。2017年4月より柏市教育委員会とプログラミング教育に関するプロジェクトをスタート。市内すべての小学校で実施するプログラミング学習のカリキュラム作成やフォローアップを担当。2017年11月より一般社団法人CoderDojo Japan理事。大学院ではコンピュータを基盤とした教育について研究している。