プロフィール 山地由里さん
エンジニアとしてキャリアをスタートし、IT企業にてプロダクト開発を担当。その後、シカゴ大学にてMBAを取得。卒業後はアメリカのIT 企業で人事を担当する。7年の米国生活を経て帰国後は米国系大手検索エンジン企業でアジアパシフィック地域のダイバーシティ統括責任者としてエグゼクティブへのダイバーシティに関するコンサルティングを担当。2018 年からは人事の分野を離れ、新規ビジネス開発を担当している。3児の母でもある。
目次
はじめに
みなさま、はじめまして。山地由里です。2回の連載で、「これから世界で活躍する子の子育て」について考えていきたいと思います。
まず最初にお断りしておきたいのですが、私自身、小学生の子ども 3 人の子育て真っ只中で、試行錯誤しています。「世界で活躍する子の子育て」といっても、上から目線で成功体験を語るものではありません。
私が日米のIT企業で仕事をし、さまざまな考え方やユニークな人達にふれてきた中で、私なりにこれからの世界で活躍できる子というのはどんな子なのだろうかと考えていることをお伝えできればと思っています。
まずは、私の自己紹介からはじめたいと思います。
自己紹介
私の経歴を見て、「よく帰国子女ですか?」と聞かれるのですが、そんなことはありません。ごく普通の日本の家庭で育ち、大学までずっと日本の教育を受けました。
ただ、漠然とアメリカに行きたい、アメリカで働いてみたいと思い続けていましたので、大学を卒業した後、何年か働きお金を貯めて、アメリカの大学院に留学することにしました。
実は留学を決めた時、すでに結婚をしていましたが、夫は仕事を辞めて専業主夫としてついてきてくれました。夫婦二人、無職で渡米したのですが、周囲からは「頭がおかしいんじゃないの?」とよく言われました(笑)。
その後、シカゴ大学のビジネススクールを卒業し、シアトル近郊の IT 企業で5年とちょっと働きました。そして今から8年前、日本に帰国してからは また別のアメリカ系 IT企業で働いています。
今の会社では、最初は人事の仕事をしていましたが、2年ほど前から人事を離れて、現在はビジネス開発を担当しています。
プライベートでは3人の小学生の子どもの母です。一番上の子が12歳の女の子、下は8歳の男女の双子です。女の子は同性ということもありわかりやすいのですが、男の子はちょっとユニークなところがあり正直苦労することもあります。長男については、後ほど詳しくお話したいと思います。
伝えたい3つのこと
今回の連載でお伝えしたいことが3つあります。
1つ目は、「自分の好きなことをやりぬくことが強みになる」ということです。
自分の仕事を振り返ってみても、「自分の好きなことをしている時」「人からやらされるのではなく、やりがいを感じている時」には、思わぬパワーを発揮できたり、とても熱量をもって仕事ができたりしました。
この「パワーを持って突き進む」ということが、今とても求められているように思います。人それぞれ好きなことは異なりますが、自分の好きなことを突き詰めていくというのは、その人にとって強みになると、私は信じています。
2つ目は、「これまでの物のあり方、考え方、価値基準は、これから通用しなくなる」ということです。
日本に限らず、世界的な傾向でもあると思いますが、「学校で良い成績をとる」とか、「ルールを守って、いい子だねと褒められる」というのが、これまでの考え方でした。それは間違ってはいないと思いますが、それだけが王道ではなくなってきていると思います。
3つ目は、「不確かな環境で自分の道を切り拓くことが求められている」ということです。
色々なことが激しく変化する時代において、臨機応変に立ち向かうということが、子どもにとっても、また親にとっても求められていると思います。
ではここから、以上の3点について掘り下げていきます。
自分の好きなことをやりぬくことが強みになる
まず1点目の「自分の好きなことをやりぬくことが強みになる」についてです。
私は、エンジニアとしてキャリアをスタートしました。次に人事でダイバーシティに携わって、現在はビジネス開発を行っています。ものすごくランダムにキャリアを変えているようにみえるかもしれませんが、私の中ではとても筋が通っていて、「世の中にインパクトを与えることをしたい」と常に考えて選んできた結果なのです。
エンジニア時代は「新しい製品を作って世に出すことで社会を良くしていきたい」と考えて仕事をしていました。その後、ダイバーシティの道にすすむことになるのですが、ダイバーシティを通して世界を良くしていきたいと思ったのが理由でした。
トータルで10年程、ダイバーシティをテーマに濃密な時間を過ごすことができたのですが、さらにスピード感を持って世の中にインパクトを出していきたいと思って、2年前からビジネス開発に携わっています。
こう話すと順調なキャリアにみえるかもしれませんが、この過程には大きなチャレンジがありました。例えば、8年前に帰国して、ダイバーシティで食べていこうと思って就職活動をしましたが、当時の日本ではまだ「ダイバーシティ」という言葉自体がそれほど一般的ではなく、ダイバーシティに関連したポジションが日本にあるという会社はほんの数社しか存在しませんでした。
私は、自分が「好き!」「やりたい!」「楽しい!」と思うことにつき動かされてキャリアを選んできましたが、蓋を開けてみたら仕事がなくて「さあ、どうしよう?」という状況でした。
このような中、たまたま今の会社にダイバーシティのポジションができ、「ユニコーンを見つけた」と言われて採用してもらえました。ユニコーンというのは「珍しい生き物」の比喩です。当時の状況において、ダイバーシティに精通した日本人で、日本語も英語もできて、アメリカでダイバーシティの実務経験もあるという人は珍しく、そう表現されたようです。
加えて、採用面接を通して、私がダイバーシティに対する愛を語り続けたということもあります。その時、採用を担当していた方に「こういうユニークな人が、アジアでダイバーシティをやっていくことに意味があるのではないか」というフィードバックを頂きました。当時、ダイバーシティという非常にニッチな世界を突きつめてきた私が出せた価値を認めてもらい、採用してもらうことができたと考えています。
人と同じことをやっていくのではなく、「これに強い!」「ここに関しては、もうこの人以上の人はいないよね」というぐらいの強さが重要だと思います。実際に、その人がその道の第一人者である必要はないと思いますが、ある分野でエッジが立っている人がやはり強い気がします。
人それぞれ異なる好きなことを突き詰めていくことがパワーをうみますし、そしてそれが強みになっていくと考えています。
このような経験をしているので、自分の子どもの子育てにおいても、「自分の好きなことを徹底的にやりなさい」といつも言っていますし、そういう考えを持ち続けたいと思っています。
これまでの価値基準は通用しなくなる
2点目は、「これまでの物のあり方、考え方、価値基準は、これから通用しなくなる」ということです。
あるリサーチによると、今後20年くらいで現在存在している仕事がなくなって、かわりに新しい仕事が出てくるといわれています。私のやっていたダイバーシティの仕事も、かつては存在しなかったものですが、社会の変化から生まれた新しい仕事です。また、データサイエンティストや、携帯アプリの開発者、ソーシャルメディアのマネージャなどもこれまでにない完全に新しい仕事です。
このように、従来あった仕事は、これからものすごい勢いでなくなり、どんどん新しい仕事が増えていきます。マイクロソフトのCEOのサティア・ナデラさんという方が「(コロナによって)この2ヶ月で2年分くらいのデジタルトランスフォーメーションが進んだ」とおっしゃっていました。みなさんも最近の状況を見て、それを実感されていると思います。
コロナがなかったとしても、いまの世界はとても変化が激しいですし、仕事だけでなく、新しい価値観もどんどん生まれています。経済のあり方も変わってきていますが、それは世の中のニーズがどんどん変わってくるということでもあります。すると、今までの価値観での優秀な人、つまり、良い学校を出て、良い成績をおさめるというだけでは、その変わりゆくニーズを素早く捉え、満たしていくことが難しくなってくるのではないかと思います。
親の立場で考えた時に、自分が知っている、あるいは経験してきた価値観というのは、残念な話ですが今の子どもたちには通用しないと思っています。自分が考えている「こうあるべき」ということを子どもに押しつけても、子どもたちはそれに従わないですし、それでは計り知れない時代になってきています。
これからは、親も柔軟に考え、子どもたちを応援していくということが求められているのではないかと思います。
不確かな環境で自分の道を切り拓く
3点目の「不確かな環境で自分の道を切り拓くことが求められる」ということをお伝えするために、私が勤務している会社の話をさせてもらいます。
現在勤めている会社では、マニュアルがあって「これをして!」「あれをして!」という環境とは正反対で、入ったその日から何の指示も与えられずに放置されることがあります。また、「あなたはうちの会社の厳しい採用基準をくぐってきたんだから、これぐらいできるよね? よろしく!」と言われる状況もよくあります。
ここでは、不確かなものや、まだ決まっていない事においても、自分で道を作っていくことが重要視されるのです。つまり、自分でやるべき仕事を探し、仕事を作って、それを通して貢献していく、といったマインドセットと底力が求められるのです。
加えて、自分が正しいと思うことを貫き、「正しいものは正しい」と言える力も求められます。これをやったらお金は稼げるけれども、社会的には正しくないということが世の中にはあります。例えば、「マスクを高く売ればお金が稼げる」といった考え方です。ビジネスとして単純に利益だけを追うことを良しとするのではなく、それを会社としてやるのが正しいのか?今困ってる人や世の中のためになるかどうか、と常に考え行動し、新しい解を柔軟に出すことが必要とされるのです。
世界的企業に採用される人
私が働いてきた2つのIT企業に共通することですが、年齢に関わらず面白いものを持っている人を尊重するカルチャーがあります。
仮に、18歳でそういった企業に採用されるような人がいるとするならば、すごく勉強ができて成績が良いとかそういうことではなくて、何かにものすごく秀でている人だと思います。
アメリカで働いていた時に、高校生のインターンシッププログラムを担当していました。日本のインターンシッププログラムでは大学生でもお客様扱いで、「まだ学生だから知らなくて当たり前だよね」ということが多いように思います。
一方、私がアメリカで働いていた会社のインターンシッププログラムでは、高校生であろうと高い報酬を支払います。普通のバイトでは稼げないような報酬を払うかわりに、即戦力として雇うので、入ったその日から「こういうコードを書いて」とか、「この仕事をまわして」ということを要求するのです。
そういう環境で仕事ができる高校生にはすごく面白い人が多かったことを覚えています。例えば、アニメがとても好きで、日本のアニメをひたすら見てきたことから、日本に行ったことはないけれど日本語がペラペラであり、自分が楽しんでやってきたプログラミングの実力もとても高く、チームからもすぐにでも雇えるという評価をもらっている人もいました。
自分が好きなことをやりぬく
凡人にはなかなか理解に苦しむようなとても変わった人達もたくさんみてきた経験から、なぜそういう人達がこういった世界的企業で活躍しているのかと考えてみました。恐らく、そういう人たちは誰かに「これをやりなさい!」と言われてやってきたわけではなくて、「自分はこれが好きだ!」というのがあり、それを突きつめて、周りに流されずにやってきたことで新しい価値を生み出してきて、それが認められているのだと思います。
私が子育てに悩んでいる時に、さかなクンのお母さんの記事を読んだことがありました。さかなクンは魚が大好きで、魚の絵ばかり描いて、魚のことばかり考えていていた子どもだったそうです。学校の先生からいろんな注意を受けたこともあったし、「魚もいいけど、勉強も頑張ったほうがいいんじゃない?」と言われたこともあったそうです。
しかし、さかなクンのお母さんは、学校の先生に「うちの子はお魚が大好きで、魚に関することを一生懸命やるというのでいいんです」という話をされて、さかなクンを応援してきたそうです。本当に素晴らしいと思います。
さかなクンは、いわゆる「いい学校」で「いい成績」をおさめてきたということではないのかもしれませんが、現在は、大学の准教授などもされていて、自分の好きな分野のエキスパートとして活躍されています。
さかなクンが好きなことを追究した結果、社会に貢献できるようになったというのは親としてもとても励みになります。
好きなことは人それぞれだから強みになる
自分の好きなことをやりぬく力が強みになるという話をしましたが、好きなことというのは、人それぞれです。みんなと同じじゃないからこそ強みになります。
どんどん時代が変わってくるなかで、これからいい成績を取り続けて、いい大学に行って、有名な会社に入ってということだけがゴールではなくて、その人が好きなことで、一生懸命前に進むことができれば、それが強みになり、そしてそれがきっと新しい価値を生むことにつながるので、まわりにいる人が信じて応援してあげると良いのではないかと思います。
世界のどこででも生きていく力があって活躍できる子というのは、こういう経験を通して育っていくのではないかと思っています。
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